西大津耳鼻咽喉科

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去る8月26日に仙台国際センターで『第15回耳鼻咽喉科短期滞在手術研究会』が開催されました。今回の研究会で私は「一般演題Ⅱ(鼻科領域)」の座長を仰せつかり僭越ながら務めさせていただきました。

また、当院で主要疾患として取り組んでおります好酸球性副鼻腔炎治療の現況につき演題発表をしてまいりました。
つきましては、その演題の内容を公開いたします。
ご照覧いただければ幸甚に存じます。

平成30年9月10日
西大津耳鼻咽喉科 院長 増田信弘

【演題】当院における好酸球性副鼻腔炎に対する治療の現況

好酸球性副鼻腔炎は平成27年7月1日より、難病法により指定難病に指定された。
それを機に当院では好酸球性副鼻腔炎患者をリストアップし、当院における最重点疾患と位置づけて診断・治療を行ってきた。
そこでこの度、平成30年7月31日現在の当院における好酸球性副鼻腔炎治療の現状につき報告する。

概要

当院における好酸球性副鼻腔炎患者の現況(平成30年7月31日現在)

平成30年7月31日までに、当院において取り扱った好酸球性副鼻腔炎患者総数は94症例で、男女の内訳は男性43例女性51例で、やや女性が多い傾向が見られた。うち転居に伴い他院紹介とした症例が4例、1年以上再来がなかった症例が3例で、それらを除く87例が現在当院通院中である。

現在当院通院中の87例の年齢分布は、平均50.8才(最低年齢20歳、最高齢83歳)
40歳代にピークが見られ、30代~50台が全体の75%を占めている。
高齢になると自然軽快傾向が見られるという説もあるが、70歳以上でも依然として活発な症状を呈する症例が少なからず見られた。

年齢分布

主訴

受診のきっかけとなった主訴について調べたところ鼻症状87.2%、耳症状7.5%、咳嗽4.2%、その他(顔面腫脹が1例)1.1%であった。詳細は以下の如くであった。

主訴
鼻症状 82例(87.2%) 鼻閉 46例(48.9%)
  嗅覚 31例(33.0%)
  鼻漏 5例(5.3%)
耳症状 7例(7.5%) 耳痛 3例(3.2%)
  耳閉感 2例(2.1%)
  耳漏 1例(1.1%)
  難聴 1例(1.1%)
咳嗽 4例(4.2%)  
その他(顔面腫脹) 1例(1.1%)  

鼻症状のみならず、耳症状や咳嗽をきっかけに来院するケースも少なからずあり、注意を要する。また、嗅覚障害を主訴とする症例の中には鼻腔所見が全く正常に見えて、CTを撮って初めて好酸球性副鼻腔炎を疑うに至った症例もあった。嗅覚障害の患者に於いては鑑別疾患に好酸球性副鼻腔炎を常に念頭に置いておくべきである。

発症年齢

発症年齢の平均は45.5歳で、最低年齢19歳 最高齢74歳であった。
ピークは40代に見られたが、70歳代になってから発症したケースも6例(6.4%)見られた。

発症年齢
 

合併症

合併症の頻度は以下の如くであった。(重複あり)

気管支喘息 60例(63.8%)
 アスピリン不耐症13例(13.8%%)
 NSAIDsアレルギー11例(11.7%)
好酸球性中耳炎15例(16%)
好酸球性肺炎1例(1.1%)
好酸球性食道炎1例(1.1%)

好酸球性副鼻腔炎と気管支喘息の発症時期に関する検討

気管支喘息合併例60症例において、気管支喘息がどの時点で発症したかについて検討した。
好酸球性副鼻腔炎発症の何年前から気管支喘息が発症したかをグラフにしたものである。気管支喘息発症後2~5年経過して好酸球性副鼻腔炎を発症しているケースがめだつが、同時発症も12例見られた。一方好酸球性副鼻腔炎を先に発症し、その後に気管支喘息を合併した症例も6例見られた。
よって、自験例においては、
好酸球性副鼻腔炎発症前に既に喘息と診断されていた、あるいは喘息様の症状があった症例が42例(70%)
同時発症が12例(20%)
好酸球性副鼻腔炎発症後に喘息を発症した症例が6例(10%)であった。

呼吸器科から見た場合の発症順序

一方呼吸器科からの視点によると、全く違った結果となる。
下図は三菱京都病院呼吸器・アレルギー内科の安場広高先生にご提供いただいたデータである。喘息の治療Step別の好酸球性副鼻腔炎(ECRSと表記)合併率が示されています。
重症症例ほどECRSの合併率が高いことがうかがえる。
STEP3,4ではECRSの合併が45%に上るという結果だった。

喘息に合併するECRS115例では、おおよそECRS先行50例、喘息先行10例、判定不能55例とのことであり、当院での結果ではECRS先行例が10%であったのとは大きく乖離していることがわかる。
まとめると以下の如くである。

当院(60例)
喘息先行42例(70%)
同時発症12例(20%)
ECRS先行例6例(10%)
三菱京都病院呼吸器・アレルギー科(115例)
喘息先行10例(8.7%)
同時発症50例(43.5%)
ECRS先行例55例(47.8%)

三菱京都病院呼吸器・アレルギー科の場合、喘息発症例の全てにおいて副鼻腔CTを行っており、その客観的データから重症度判定を行っているために、鼻症状無しの症例も多く含まれる結果となっている。
一方で耳鼻咽喉科である当院の場合、なにがしかの耳鼻咽喉科的症状を自覚したうえで当院を受診し、問診で喘息の有無を確認している。
このように受診の契機と検査の進め方の違いにより、このような違った結果が出たものと思われる。

手術

87例中、75.9%にあたる66症例に対しESSを行っている。
また、粘膜下下鼻甲介骨切除術・鼻中隔矯正術による鼻腔形態改善手術を行った症例は全体の50.6%にあたる44症例に対し行っている。
高度のアレルギー性鼻炎合併例や、鼻腔形態的にESS施行が困難な例も多く、鼻腔形態改善術は積極的に行うようにしている。
全症例中5例は鼻腔形態改善手術後、自覚症状が改善したためESSを行わず経過を見ている症例である。
手術未施行群には低用量ステロイドでコントロール可能な症例や、手術忌避例、手術待機中症例が含まれる。

考察

好酸球性副鼻腔炎と古典的な慢性副鼻腔炎との相違点

  好酸球性副鼻腔炎 慢性副鼻腔炎
疫学 増加傾向 減少傾向
病態 全身疾患 局所疾患
  非感染症 感染症
手術の概念 徹底的な隔壁の除去など ドレナージ手術
術後管理期間 一生涯 数か月以内
保存的治療 内服ステロイド 抗生物質

好酸球性副鼻腔炎と古典的な慢性副鼻腔炎はともに副鼻腔炎という括りで扱われており、ともに副鼻腔の炎症性疾患であることには違いないが、全く別の疾患として理解したうえで治療しなければ、効果的で正しい治療は行えないと考える。

病態の相違を把握することの重要性は、特に手術において顕著に現れる。
古典的な副鼻腔炎の場合はドレナージをつけ、副鼻腔の通気性を確保することを中心に考えて行うが、一方で好酸球性副鼻腔炎においては篩骨蜂巣の隔壁の徹底的な除去、中鼻甲介、上鼻甲介の処理などが焦点となる。同じESS(内視鏡下副鼻腔手術)と言っても全く違った手術といっても過言ではないと考える。
また、診断基準に満たない(JESREC<11)症例は、非好酸球性副鼻腔炎と考えるよりも準好酸球性副鼻腔炎と考えるべきであると認識し取り組む必要があると考える。

必須の装備

①CT
好酸球性副鼻腔炎の診断基準にCT所見が必要なため必須の装備である。
また、後に述べる手術支援ナビゲーションシステムを稼働するためにも必要である。
但し、術後フォローに際しては鼻腔ファイバーの方が、診断価値が高く、CTを使用する頻度は少ない。
当院ではモリタ製作所製3D Accuitomoを使用。

②マイクロデブリッター
マイクロデブリッターは正常粘膜を損傷することなく病的粘膜のみを除去する器具で、マイクロデブリッターの登場により、好酸球性副鼻腔炎の手術が可能になったといっても過言ではなく、この装備なしには手術はまず、不可能と考える。
当院では、MEDTRONIC社製IPCを使用している。

③手術支援ナビゲーションシステム
好酸球性副鼻腔炎の手術では、篩骨蜂巣の徹底した除去や、中鼻甲介、上鼻甲介の操作を伴う。そのため眼窩や頭蓋底への副損傷に対する安全性の確保が非常に重要となる。
ナビゲーションシステム無しでの手術では安全性を考慮するために不十分な手術操作であきらめなければならない場面も少なからず生じ、結果として治療医不十分な手術となることが考えられる。ナビゲーションシステムが普及しつつある現在では、好酸球性副鼻腔炎を取り扱う施設においては必ず備えておきたい装備である。
当院ではMEDTRONIC社製FUSIONを使用。

症例提示

症例①

33歳2か月 男性
平成29年10月13日初診
主訴は、繰り返す副鼻腔炎
アレルギー:スギ、ヒノキ、ハウスダスト、ダニ
RIST陰性、血中好酸球9.7%
喘息なし、アスピリン不耐症やその他のNSAIDsアレルギーなし
内視鏡所見では、左中鼻道に小ポリープが見られ、右中鼻甲介の肥厚と上鼻甲介粘膜のむくみを認める。

CTでは両側の篩骨洞に、部分的に軽度の粘膜肥厚を認める。

治療は膿性鼻漏を認めない時は、粘膜の炎症が強いときにはディレグラで、比較的症状の落ち着いているときはモンテルカストで対応し、膿性鼻漏の見られるときにはクラリスロマイシンとカルボシステインを追加している。

この症例を好酸球性副鼻腔炎と診断するかどうかは慎重に検討する必要がある。
両側病変あり、ポリープあり、CTで篩骨洞優位の病変ありとすれば(実際そうなのであるが)、血中好酸球9.7%なのでJESREC15となり
因子Aがいずれも陽性、喘息なし、アスピリン不耐症やその他のNSAIDsアレルギーなし
なため、中等度の好酸球性副鼻腔炎と診断される。
しかし、データの読み方によっては非常に微妙なところである。

症例②

32歳6カ月 女性
平成27年6月13日初診
主訴は、鼻閉
アレルギー:スギ、ハウスダスト、ダニ
RIST336、血中好酸球14.1%
喘息は過去に咳嗽で内科受診した折に2度診断され治療を受けた既往があるものの平常は症状がないということ、アスピリン不耐症やその他のNSAIDsアレルギーなし。
内視鏡所見では中鼻甲介および中鼻道粘膜に強い浮腫性変化を認めるもののポリープは見られない。

CTでは篩骨洞には全く陰影を認めない。

この症例もまた、好酸球性副鼻腔炎と診断するかどうかは慎重に検討する必要がある。
両側病変あり、ポリープなし、CTで篩骨洞優位の病変なしで、血中好酸球14.1%なのでJESREC13となり、因子Aが1項目陽性、喘息ありであるため、この症例は中等度の好酸球性副鼻腔炎と診断される。これもまた、微妙なところである。

この2症例はいずれも30代前半で、好酸球性副鼻腔炎患者は当院の統計でも40歳代に非常に高いピークを認めることから、今後喘息発作を含め、鼻症状の増悪など本格的な好酸球性副鼻腔炎の発症が懸念されるため、患者にもそのような認識を持ったうえで定期的に受診するように指導している。当院では、いわゆる準好酸球性副鼻腔炎として取り扱っている。

症例③

47歳4か月 女性
平成25年7月31日、高度の慢性鼻炎に対し両側粘膜下下鼻甲介骨切除術、経鼻的翼突管神経切除術、鼻中隔矯正術を施行。
術後も急性副鼻腔炎症状や嗅覚障害を繰り返し、セレスタミンやマクロライドの内服で対応。
平成26年2月12日両側ESS施行。
ESS施行後も洞内の炎症を繰り返すためセレスタミンやマクロライドの内服などでの対応を継続。

もともと喘息があるため増悪時には近医内科より処方されているパルミコートを使用していた。
アスピリン不耐症がある為に、アスピリンやロキソニンなどの消炎鎮痛薬は控えるように指導されており、使用は控えられていた。
平成28年9月8日
外来受診時、問診で頭痛や生理痛に対しイブプロフェンを常用していたことが発覚。
イブプロフェン使用中止後速やかに劇的改善をみた。

「アスピリンやロキソニンの使用を控えるように」と指導されていたため、イブなら大丈夫だろうと自己判断し使用が続けられていたケースで、患者目線に立っての丁寧な指導の必要性が重要であると再認識された症例であった。

本症例のような、医原性好酸球性副鼻腔炎というべき症例も、精査すれば少なからずあるのではないかと考えられる。

平成30年8月26日

西大津耳鼻咽喉科 院長 増田信弘